抗がん剤の一つシクロホスファミドとマスタードガスの関係
がんはどの国でも死亡要因となっていますし、日本国内でも死亡理由の代表格といわれています。
抗がん剤の一種でDNA合成を阻害するお薬としてシクロホスファミドがあります。
がんの治療薬として活躍しているこのお薬には、悲しい歴史と過去があり、マスタードガスという毒ガスと深い関係にあります。
シクロホスファミドは元となる物質がマスタードガスなのです。
このマスタードガスはみなさんも聞いたことがあるかと思いますが、ドイツで開発され、多くの命を奪ってきました。
最初は農薬開発ということで作られたものでしたが、毒性があまりにも強いということで、開発が放棄されました。
しかしこの強い毒性に着目したのがドイツで、毒ガス兵器として制作し1917年、カナダ軍に対し戦場で利用してしまったのです。
抗がん剤になるまでには様々な出来事が・・
ドイツと同様にアメリカも毒ガス研究を行っており、この際にマスタードガスの構造を少し変化させて作られたのがナイトロジェンマスタードという物質です。
当時のがん治療にはX線以外に方法がありませんでしたが、X線照射は細胞に突然変異を起こす作用があり、この作用を利用してがん細胞を死滅させます。
1943年、タンカーが沈没する事件の際に、このマスタードガスが大量に積まれていたことで、救助された多くの方々が血圧の低下、白血球減少などの症状がみられたといいます。
がん細胞と白血球などの血球細胞には増殖する速度が正常細胞よりも早いという共通点があります。
こうした症状を確認したことで、マスタードガスはX線照射と同じように細胞の突然変異を促すではないかと考えたのです。
これによってマスタードガスの構造を利用しナイトロジェンマスタードが誕生し、これを悪性リンパ腫を患っている患者さんに投与したところ、効果がみられ、世界初の抗がん剤となったのです。
しかしこの抗がん剤は副作用が大変強く、この副作用を軽減して作られたのがシクロホスファミドです。
毒ガスから見つかった病気に利用できる作用
人の命を奪う毒ガスはもちろん危険なものですし、現在、毒ガスなどを利用した兵器については利用が認められていません。
戦争が無くなる事が最もいいことなのですが、戦いの場でも、人道的ではない毒ガスを利用した攻撃は許されていないのです。
しかし現在も利用したのではないか?と思われる攻撃があり、毒ガスはひそかに利用されているともいわれています。
毒ガスを作りだすのも科学者で、その毒からでも、有効利用できる方法を作り出すのも科学者です。
これから先、抗がん剤の研究はドンドン進められていくと思いますが、間違っても違う利用にならないようにしてほしいものです。