抗血栓薬として投与されるワルファリンなど、血液凝固系に作用する薬は、薬同士の相互作用だけでなく、食品との相互作用に注意喚起の必要性の高い医薬品の一例です。
特に昨今セルフメディケーションの意識が浸透し、日常的に何らかのサプリメントや健康食品を摂取しているような人がほとんどです。
そして、何らかの疾患を持っているわけではなく、美容や健康の維持増進・疾病の予防的な意義で健康食品を服用しているような人以外にも、実際に何らかの疾患を発病し治療中で、治療の補助的な目的で健康食品を投薬された医薬品と共に積極的に服用している人達も数多く存在します。
そういった人達の多くは健康食品に医薬品的な効果を期待する一方で、「これは食品だから…」という油断があって、医薬品との間に相互作用が起こり得るものだとは強く認識していません。
ですから、薬剤師や医師に対しても自分からは「この健康食品を足服用している」と申告する人は少ないのです。
薬剤師としては服薬指導の際に、具体的な食品名・健康食品名を挙げて患者に充分な注意喚起を行うべきでしょう。
それでは、血液凝固系に作用する薬と相互作用を起こす食品・健康食品を具体的に挙げてみましょう。
まず有名なのは納豆とクロレラです。
これらの食品は、抗凝血薬のワルファリンの作用を減弱します。
ワルファリンはビタミンK類似構造を持つ物質で、ビタミンKに拮抗し、ビタミンKが関与して血液の凝固因子がつくられるプロセスを抑えて血を固まりにくくする薬です。
クロレラや納豆はビタミンKを多く含み、また、納豆には、腸内でビタミンKの生合成を促進する納豆菌や血栓溶解酵素であるナットウキナーゼが含まれているため、上記の機序が働きにくくなる、という訳です。
また、相互作用でワルファリンの作用を増強して、服用者の出血傾向を強めてしまう食品としては次のようなものがあります。
ワルファリン服用中に同時に服用して、消化管出血による死亡例が報告されている食品にクランベリージュースがあります。
これは、クランベリージュースに含まれている成分が、「CYP2C9」というワルファリンを代謝して分解する代謝酵素を阻害することによって、体内でワルファリンが代謝されにくくなり、結果として薬効が増強されたために起きた事故と考えられているのです。
また、ワルファリンとその他の血液凝固系に作用する血小板凝集抑制薬・抗血栓薬と拮抗して、薬の作用を減弱する可能性がある事が報告されている食品としては、「血液をサラサラにする健康食品」として一般に広く認知されているEPAやDHA・イチョウ葉エキス・にんにく・たまねぎ・ノコギリヤシなどがあります。
これらは、一般の認知度の非常に高い健康食品なので、患者が処方されている医薬品と積極的に併用してしまう可能性が高いので注意が必要です。
この他にも、サリチル酸を多く含むイチゴ・トマト・きゅうり・みかん・ぶどうなどの果物・野菜類も血小板凝集抑制薬・抗血栓薬と拮抗する可能性が指摘されています。